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クローバーの独り言

新.三.銃.士の感想とかお話もどきを気儘に書き綴ってます。 Copyright ? 2010- Koufuu Biyori All rights reserved.

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幽玄の月夜

久し振りにお話をUPしました。

「すぐそこですから」「すぐそこまで」のシーンにちなんだ超短編です。

よろしかったらどうぞ。

二人分の重みが掛かった階段がギシリと鈍い音を立てて軋む。
月明かりで仄かに照らされてはいるものの、夜に薄暗い階段を登るのは普段だったら気が引ける。
陰鬱な音と薄暗い闇に包まれた空間の中でも、コンスタンスの胸の中ではときめきにも似た想いが満ちていた。


このままずっと、終わりなき階段を一緒にのぼり続けることが出来たらいいのに。


胸の奥に隠した想いは月影に照らし出されて、しっとりと濡れていった。
切なく・・・・・・そして美しく。


*****

「お見送りしますわ」


聖書の講義を終え、二階の下宿部屋へと戻ろうとしたアラミスに投げ掛けた言葉は静かな部屋に波紋を広げる。
咄嗟に口をついて出た言葉には、それほど深い意味はなかったのだが、心の奥深くではまだ目覚めていない気持の種が発芽しかけていた。
貴重な時間を割いて、自分の為だけに講義を開いてくれたアラミスに対する最大限の感謝の気持から出た言葉である筈なのに、何故か全身が僅かに体温上昇した様な感覚に陥る。
好意と感謝の境目に横たわっている、何となくぼやけた気持がコンスタンスの身体を包み込む。

もどかしくて・・・・・・でも胸の内で芽生え掛けている何かに気付き始めて。

周囲で接している夫や男性達とは決定的に違う想いをアラミスに対して抱き始めているのを薄々感じながら、コンスタンスは敢えてその想いを遠ざけようとはしなかった。
それが無意識の発露によって己の気持に齎されるものなのか、今はまだ知らなくていいと自分自身に言い聞かせつつ。


「すぐそこですから」


口に笑みを浮かべつつ、穏かに話し掛けるアラミスの表情には一片の曇りも見当らなかった。
柔らかな月の光に照らし出されるその端正な顔には、他人からの思惑などを一切寄せ付けぬ高貴で穢れなき想いが滲む。
真っ直ぐな眸は、自分自身を強く律している者のみが纏う事を許された、青白く淡い月の光に彩られていた。
吸い込まれそうな位、深く澄んだ眸の色の美しさに、思わず息が止まりそうになる。
惹きこまれそうになる寸前で辛うじて押し留めた想いを胸に秘め、コンスタンスは無意識の小さい賭けに出た。


「では、すぐそこまで」


アラミスからその申し出を即座に一蹴されるかもしれないという不安を隠しつつ、投げ掛けた言葉が宙を切る。
彼の返答如何によっては、天国と地獄ほどの極端な想いに苛まされるのを覚悟の上で、あくまでも平静を装って紡ぎ出した言葉の欠片。
長いような短いような時間の中で、凄まじい葛藤が胸を覆い尽くす。
そのどっちつかずの均衡は、アラミスの柔らかな微笑とさり気ない誘導によって破られた。
一言、二言他愛無い言葉を交わしつつ、談笑しながら一緒に歩き出す幸せに心が追い付けなくなる。
アラミスにとっては自分からの見送りを受けつつ一緒に階段を登る、ただそれだけの意味の無い行為なのかもしれない。
しかしコンスタンスはまさに今、魂が天にも昇るような心地で埋め尽くされていた。
夫という現実問題を取り除き、恋に恋する純真な乙女そのままの、あの頃に戻っていく気持を抑えられなくなりそうで。


・・・・・・夢ならば、どうか覚めずにいて欲しい・・・・・・!


純真無垢な乙女の祈りに終止符を打たねばならぬ時が訪れた。


「ここで結構です。ご主人が心配されますから、どうぞお戻りください」

他ならぬアラミスからの言葉によって、一気に現実へと引き戻された瞬間、僅かに顔が強張るのが分かった。
認めたくない現実を突きつけられた落胆は、相当なダメージをコンスタンスに与えていた。
夢と現実の狭間でずっと喘ぎ続けなければならぬ仕打ちに、コンスタンスは初めて我が身を呪った。
親や夫を恨むのは見当違いだと重々承知している。
しかしもし仮に、父親の借金が発覚する前にアラミスと出逢っていたのなら、どんなに幸せだったことだろう。
まだ恋の意味も知らない真っ白な少女の頃に戻ってやり直せるのであれば、どんなに素敵な事だろう。


全ての現実を受け入れ、諦観せねばならぬ事実と向き合った時から、私は私でなくなったのだ。


哀しみに喘ぐ心を強引捻じ伏せて、コンスタンスは精一杯の笑顔をアラミスに向けた。
一瞬強く煌いた月の光に、コンスタンスの胸から零れ落ちた哀しみの雫が紛れ込む。


「今夜もありがとうございました。お休みなさい。どうぞいい夢を御覧になって」


名残惜しむように一歩ずつ後退りながら、アラミスの元から去っていくコンスタンスの影に青白く儚い月の光が差し込む。
階段を下りる途中で、躊躇った末に振り返った瞬間、心が溢れ出すのを止められない。

月の光を身に纏い、自分の事を一心に案じながら見つめているアラミスの姿がそこにあった。
絡み合う視線の先で止まった時間が、一瞬だけ微かに触れ合う。

どちらともなくそっと頷き合いながら、やがて静かに遠ざかっていく影法師。


この夜、二人の心に通い始めた何かを知っているのは・・・・・・青白く光る幽玄の月、ただそれだけだった。

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ご無沙汰しております。

こーふーびより様
こんにちは。お世話になっております。
作品拝見いたしました。震災以来、創作意欲が戻らないとおっしゃっていたこーふーびよりさんですが、私は何かと気分が沈む今だからこそ癒されたくて、元気を出したくて、実はずっとこーふーびよりさんが作品を書いてくださるのを待っておりました。もし失礼でしたら誠に申し訳ありません。「幽玄の月」ほかコラボブログも拝読して、優しい恋人たちの繊細な描写が深く温かく心に染みました。書いてくださって本当にありがとうございました。
私も文章を書くのは好きですが、ああやっぱり、この表現力にはかなわないといつも痛感します。映像にしてしまえばほんの数秒間の出来事なのに、どうしてこんなに広げられるのでしょうか。尊敬の念でいっぱいです。またいつでもいいので、作品をお書きになってください。お待ちしています。
失礼致しました。
凛香絢

ありがとうございます

>凛香さま

こんにちは。こちらこそ御無沙汰しております。
お話読んで下さってありがとうございます!

お話の隙間を縫った行間みたいな話ばかり作っているので
読み応えがなくて申し訳ないのですが(汗)
読んでくださった方の心の何処かに、お話の中に散りばめた些細なフレーズが
ほんの僅かでも残っていたとするならば嬉しい限りです。

梅雨に入り、天候不順な日々が続いておりますが
どうぞ体調にお気をつけくださいね。
この度はコメントをお寄せいただき、ありがとうございました!
【2011/06/04 11:31】

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